「福島の子供の甲状腺がん発症率は通常の20~50倍」を米国と比較する 1
岡山大学大学院の津田敏秀教授(生命環境学・環境疫学)らの研究グループが、福島の甲状腺がんの現状について発表した。福島県の県民健康管理センターのデータを分析し、福島県では通常の甲状腺がんの発がん率の20倍~50倍の頻度で発生しているとした。
調査は事故当時18歳未満だった福島県民全員、約38万5000人を対象に、段階的に実施されている。このうち、2011~13年度に検査を受けた約30万人について、100万人あたり3人程度といわれる、ほぼ同年齢の日本全国での1年間あたりの発症率と比較した場合、福島市と郡山市の間で約50倍、福島原発周辺地域で約30倍、少ない地域でも20倍となった。2013年調査のいわき市で約40倍となるなど、潜伏期間を考慮すると発症率がより高いとみられるケースもあった。
(ハフィントンポスト(10/8より抜粋)
統計的な議論ができるのか?
小児甲状腺がん(PEDIATRIC THYROID CANCER)という単語を聞いた時に、とてもレアな疾患なので、統計的に正確な議論ができるのだろうか、という印象を受けた。理由は、以下の3点である。
1.あっちゃんが肝芽腫になった時に買った”小児がん診療ハンドブック”という医療従事者向けの500ページを超えるハンドブックがあるのだが、この本に”小児甲状腺がん”という単語は一言も出てこない。固形腫瘍で出てくるのは、脳腫瘍、網膜芽細胞腫、神経芽腫、肝腫瘍、腎腫瘍(ウィルムス腫瘍)、骨肉腫、ユーイング肉腫、横紋筋腫、胚細胞腫、悪性ラブドイド腫、滑膜肉腫、他にも細胞の分化度の違いによって未分化型○○腫や各種奇形腫等は、出てくるが、甲状腺がんという単語は出てこない。100万人に1人といわれる肝芽腫でさえ、10ページさいて掲載されている。
2.2012年固形腫悪性腫瘍統計(日本小児外科学会悪性腫瘍委員会)という、外科医からの報告をまとめた統計資料の論文の2012年版があるが、統計のメインは主要5固形腫瘍(神経芽腫、腎芽腫、肝芽腫、胚細胞腫、横紋筋腫)で、報告全480症例のうち、これらで347例を占めていた。
甲状腺がんの記載に関しては、P.149のその他の腫瘍の欄で、甲状腺がん1件とあった。報告施設は、全国83施設。今回発表された論文では、一般に100万人に3人と記載があったので(国内で40~50人/年の換算)だが、この頻度だと、全国規模でのスタディーグループを作り、症例を集めないと体系だったデータの蓄積は進まない。2012年の報告症例は480件だが実際の国内の小児がんが年間2000~2500人で、6割が固形腫瘍ということで、実際の症例の1/3強が報告されていることになり、逆算から、小児甲状腺がんは、3人とか4人となる。これだと、福島は異常に多いことになる。
3.憶測だが、小児甲状腺がんに関しては、長期生存率が他の小児がんと比較して非常に良好で、治療法も確率されており、ノウハウやデータ蓄積の優先順位が低いと、医師の間で思われている為、体系たった研究が行われにくい。
米国における小児甲状腺がんの現状
米国の資料を探してみた。適当に、WEB上で調べてみて、3つサイトを見つけた。
小児甲状腺がんの特徴は、①再発率は高いにも拘らず長期生存率は良好。②無症状のことが多い③10-20%の患者において診断時に転移している。④発生率は、18歳未満で、10万人中0.54人。⑤結節から腫瘍に変化する割合等は、成人とは大きく異なる
Facts about Thyroid Cancer(甲状腺がんの概要)
甲状腺がんは、近年発病率が上昇しているがんの一つで、子供から高齢者まで発病する。2015年に、アメリカでは62450件の甲状腺がんが診断(女性47230/男性15220)され、1950名(女性1080/男性870)が甲状腺がんで亡くなっている。
初期の段階では無症状だが、進行すると、首にしこりや結節ができ、しわがれた声になる、話すことがつらくなる、リンパがはれる、唾を飲み込むのがつらくなる、呼吸がつらくなる等の症状が出始め、痛みを喉や首に感じる。
甲状腺がんには、乳頭がん(papillary)、濾胞状がん(follicular)、髄様がん(medullary)、未分化がん(anaplastic)、変異型(variants)等幾つかの種類があるが、乳頭がんと濾胞状がんが。甲状腺がん患者全体の80~90%を占める。
甲状腺がんの治療には、手術、放射性ヨウ素療法、外部放射療法、化学療法が含まれる。ほとんどのケースにおいて、患者は甲状腺摘出手術を受け、甲状腺ホルモン補充療法の治療を受ける。
甲状腺がんの発生因子として、家族歴、性別(女性の甲状腺がん発病率のほうが高い)、年齢(年齢を問わず発病するものではあるが、大多数の甲状腺がん発病は40歳以上)、甲状腺への放射線被曝が考えられる。
多くの甲状腺がん患者の予後は良好である一方、再発率は30%までに上り、初期診断から数十年たって再発する可能性もある為、患者は定期的なフォローアップ検査を受け、がんが再発していないかどうか定期検査を受ける必要がある。
(出所:THYROID CANCER Survivor’s Association)
Pediatric Thyroid Cancer(小児甲状腺がん)
- 発生頻度の少なさと、その為に、各種の治験データの不足により、効果的な治療プロトコルに行き当たっていなかったが、2015年にthe American Thyroid Association (ATA)により、甲状腺結節と、分化型甲状腺がんの治療に関する、初めてのガイドラインが策定された。
- 過去30年間で、首に関係する悪性腫瘍の発生頻度は、25%増加した。小児の甲状腺結節は、大人と比較して、低頻度(0.2%~5%)であるが、甲状腺がんに発展する可能性が大人よりも高い。
- 甲状腺結節
- 診断手順は、以下の5つ
- ①Child’s history, including familial history and radiation exposure(家族歴、放射線の暴露)②Clinical examination(臨床診察)③Laboratory tests(室内試験)④Thyroid ultrasonography(エコー検査)⑤Fine-needle aspiration biopsy (FNAB)(生検)
小児甲状腺結節は、無症状だが、首に大きなしこりができ、親や定期健診時の医師によって発見される。小児甲状腺がんは、大人と異なり、声の変化、唾を飲み込みにくい、呼吸がしにくい等の症状もない。肺に転移がある場合でさえ、呼吸系の疾患も見られない。
通常、発見時に10-20%の患者で転移(主に肺)、70%程度にextensive regional nodal involvement(首回り広範囲にわたるこぶ?)を併発している。発見された小児甲状腺がんの患者の50%は、甲状腺結節も肥大化していた。
甲状腺結節の診断の次は、この結節が悪性か良性か決めることである。小児甲状腺がんは、通常進行した状態で発見されるが、長期生存率は95%である。
(出所: Medscope)
Thyroid nodules and cancer in children
小児の2%から甲状腺結節が見つかり、大部分は良性だが、一部は悪性である。小児甲状腺がんは、大人のそれを比較して、診断時に転移している可能性が高く、また再発率も診断後20年にわたり高い。
11歳から18歳の学生において、1.8 %の生徒に甲状腺結節が見つかった。同じ生徒を対象に、20年後に追加調査を行ったところ0.45%に同様の甲状腺結節が見つかった。これは75%の甲状腺結節が消滅したことを意味する。
一般に、成人の甲状腺結節について言われている”甲状腺結節の5%が悪性化する”という数字よりは、小児の発がん率は高いという報告がある。しかし、1973年から2004年までにThe Surveillance, Epidemiology and End Results (SEER) に1753の小児甲状腺がん患者が登録されているが、これは一年間に10万人に0.54人の割合であり、言い換えると、1歳から18歳の子供の10万人に10人の割合(英語の表現がおかしいのでは?1人の子供が、生まれてから18歳までに小児がんになる確率が10/10万と言い換えるべきでは?)で、小児甲状腺がんを発病していることになる。これは、先の小児甲状腺結節の見つかった割合と比較すると、小児甲状腺結節患者180人に1人の割合で、甲状腺がんに進行したことになり、大人よりも割合はかなり低いことになる。
(Auther: Stephen LaFranchi, MD Professor of Pediatrics Oregon Health & Sciences University)
米国での30年にわたる小児甲状腺がんに関する研究論文
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先の米国でのWEBの情報で引用されていた論文が公開されていたのを見つけた。長いので、次回、内容を紹介したい。
Thyroid Carcinoma in Children and Adolescents-Systematic Review of the Literature