福島の小児甲状腺がんを米国と比較
米国における過去30年にわたる小児甲状腺がんを調べた論文が2011年に発表されていたので、今回の福島の件と比較してみた。最後に和訳を掲載した。
論文の要約
福島の論文の検証
・日本の通常の小児甲状腺がんの発病率が3/100万
- 今回の0.54/10万と大きくはずれないので、前提としては問題ないと考える。
・福島県において113人(0.04%)が甲状腺がんが発生(3年累計)
- 0.04%は、1万人に4人の割合であり、小児がん自身の発症率が1万人に1-2人(2000~2500人/1650万人)である。3年累計なので、3で割り、単年度換算しても、すでに全小児がんの発症率と同程度の割合であり、異常値
・福島のケースで、腫瘍サイズが14.2±7.8 ㎜(5.1-45.0 ㎜)、震災当時14.8±2.6 歳(6-18 歳)。
- アメリカのSEER論文では、診断時に、4cm以上が36%、1センチ以下が9%(乳頭がんに絞れば3%以下)とあり、かなりずれがある。福島のケースは、±は標準偏差(?)と解釈すると、2シグマの値が29.8㎜となるので、97.5%が29.8mm以下のサイズの腫瘍の大きさとなる。そして、10.3mm(約0.5シグマ分/14.2-3.9)以下の腫瘍サイズの患者の割合は、31%いることになり(すべて、患者の腫瘍サイズが正規分布している前提・実際に腫瘍サイズは、5.1~45.0mm)、福島:アメリカでは、
- 10mm以下 日本31%:アメリカ9%(or3%)。
40mm以上 日本ほぼゼロ(3シグマ):アメリカ36%。
ずれが大きい。スクリーニング効果が出ているのは明確だ。この症状の差から見て、おそらく同じ前提条件の発症率で比較するのは、無理がある。通常は発見されない小児甲状腺がんが発見されて、発症率が上昇しているという指摘は、ある程度合理的だ。
甲状腺がんは、上皮性癌の一種なので、小児がんの割りには、細胞分裂のスピードは早くないかもしれない。DT(Doubling Time:細胞が倍になる期間)がどれくらいかがわかれば、逆算して、調整は可能かもしれない。おそらく、この113名は、一般的な状態であれば、大部分は、発見されずに見過ごされていた可能性が高い(無症状で、定期健診や親の指摘で、首回りが肥大化してきてはじめてわかるため)。その意味で、この数字は数分の1から、10分1程度に割引いてみなければならないかもしれない。
・福島のケースで、結節が見つかった患者数は、3990人(1.4%/3年)。
- この結節の小児の数は少しおかしい。SEERの論文によれば、小児の結節の見つかる割合は、約1-1.5%程度、10代では13%とある。この論文と比較すると、福島の結節の割合は、アメリカ以下である。がん患者の割合と比較して、結節の小児数が少なすぎる。前期のブログで指定したが、SEER他の論文から類推すると、アメリカでは、180人に1人程度が、結節から悪性化するということだった。これと比較して、約3%(113/3990)は非常に大きい。被ばくによるケースの結節から悪性腫瘍になる割合の再調査も必要であろう。
もし、同様の分布であれば、がん患者の数から逆算すると、結節患者数も10倍や20倍になるはずだが、そうはなっていない。それとも放射性被ばく系の甲状腺がんの場合は、結節の状態を飛ばしていきなり悪性化するのであろうか?のう胞の割合は、SEERにはなかった為、比較できないが、結節の割合は低すぎるので、この点は調査が必要であろう。
・遺伝子変異のタイプ-今回の調査では、焦点があたっていないが、昨年11月に福島県医大の鈴木教授が、がん細胞の遺伝子解析結果について、67%が通常大人で甲状腺がんを発症した際によくみられる「BRAF」と呼ばれる遺伝子変異が見られ、チェルノブイリ原発事故後に多くみられた「RET/PTC3」のタイプは24人中、1人も見つからなかった。
- SEERの報告を見ていると、小児甲状腺がんを調べるにあたっては、遺伝子の突然変異について記載されていた。これは、チェルノブイリ事故系の甲状腺がんにおいて、RET/PTC-3という組み換えが多くみられ、これが被ばくの典型的なパターンとみられています。これに対して、福島では、BRAFと呼ばれる遺伝子の変異が見られ、チェルノブイリ型は発見されなかったとのことである。この点について、WEB上で調べているとあるブログで、遺伝子変異は、年齢により、異なる遺伝子の組み換えが起こるのでは?という指摘があったが、今回の発表でそれは否定されることになる。
・「福島県における小児甲状腺癌治療の実際」第27回日本内分泌外科学会総会 抄録によれば、2014年10月までの症例において、福島県立医科大学で、手術をした症例79件(別に1件良性)で、76例が乳頭がん、3例が低分化がん、腫瘍10mm以下17例(22%)、甲状腺外浸潤44%、リンパ節転移75%、肺転移疑い3例(4%)
- SEERでは、9%であったので、それよりは、ウェイトは高いが、先ほどの統計的な数値よりは、下がっている。リンパ節転移61.5%、甲状腺外浸潤39.5%、遠隔転移7%とあったので、症状の比率は、それほどずれがない。腫瘍の大きさに違いがある割りには、進行度はほぼ類似している。
総括
今回発表された論文は、もともと発表された福島県のデータの発表の仕方の問題もあるのだろうが、やや片手間的な感がします。疫学的な見地も被害の拡大を避けるためには、重要だが、もう少し細部にわたる比較があったほうた説得力はあったのではと思います(おそらく、それは理解されたうえで発表されたのでしょうが)。
被ばくにより甲状腺がんの増加を説明するのには、やや説得力が欠ける気がします(ABSTRACTしか見ていないですが)。おそらく、経験則的に、検査を精密にすることにより増加する分を見込んでも20-50倍はありえないというのが、念頭にあるのでしょうが、論文としては、もう少し精緻さがあったほうがいい気がします。ただ、実際に、この発生頻度は、感覚的に異常ですので、因果関係は別として、福島県にいれば、甲状腺がんに、他府県にいるよりは高くなるということは、断言できると思います。
また、甲状腺がんは、長期生存率の高い疾患であり、晩期障害のに関してもよく考える必要がある。国と東電が責任をもって、フォローアップ、晩期障害を最小限にする医療体制の確立に協力することが、求めれることではないかと思います。
米国調査レポート原文
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