肝芽腫と肝臓の機能との関係 その2 Pretextを理解する為に
Pretextの定義
さきほどの図で、肝臓のざっくり構造は見て取れた。次は、これと肝芽腫の関係だ。
Pretext1
- 4つのうち、連続して腫瘍の無い区域が3つある=1区域の中心にある門脈・肝動脈・胆管のみ腫瘍と接していて、3本ある肝静脈は腫瘍接しているかもしれないが、静脈を隔てた次の区域はフリー
Pretext2
- 4つのうち、連続して腫瘍の無い区域が2つある=2区域の中心にある門脈・肝動脈・胆管は腫瘍と接していて、、、①腫瘍が一つの場合、3本ある肝静脈は1本は腫瘍と接しており、もう一本は接しているかどうか、②腫瘍が2つの場合、3本ある肝静脈のうち両サイドの2本の外側に腫瘍がある
Pretext3
- 4つのうち、連続して腫瘍が無い区域が1つある=3区域の中心にある門脈・肝動脈・胆管は腫瘍と接していて、、、①腫瘍が一つの場合、3本ある肝静脈は2本は腫瘍と接しており、もう一本は接しているかどうか、②腫瘍が2つの場合、3本ある肝静脈のうち1本は接しており、残り2本は接しているかどうか
Pretext4
- 4つとも腫瘍がある or 関門部に腫瘍がある=4区域の中心にある門脈・肝動脈・胆管は腫瘍と接していて、3本ある肝静脈はすべて腫瘍と接している。
日本のPretextの分類は、欧州のSIOPELから取り入れたが、欧州のオリジナルと若干異なる。Pretext4に関門部に腫瘍がある場合も含めている。SIOPELでは純粋に腫瘍に侵されている区域でのみ分類している。日本の場合、手術の難易度(腫瘍を完全切除できる可能性)をそのまま4段階に分けて分類したようだ。
肝切除を行うためには、最低でも1組の腫瘍に接していない門脈・肝動脈・胆管のペアと、肝静脈が必要になる。化学療法で、腫瘍が縮小した後に、この条件が成立しないと、生体肝移植が必要になると言う。
当初にPretext3 or 4であったものも化学療法で腫瘍が縮小すれば、手術が可能となることが多い。しかもPretextの判定は間違って過大に評価していることが多く、実際に、完全切除できないものはそれほど多くない
(全患者の37%を過大に評価、12%を過少に評価しており、最初に正確に評価できたのは51%のみという。これは腫瘍が拡大して、隣の区域まで侵潤しているように映る場合も、実際は区域を超えて侵潤しているケースはそれほど多くなく、区域内にとどまっていることが多い為。)
肝切除か肝移植か?
ところで、肝切除は難しいのか、そうでないのか?
あっちゃんぱぱは、外科医ではないので、実際にはわからないが、難しい部類に入るらしい。理由は、小児の肝臓を切る機会が少ないためと言う。小児の肝臓疾患としては、胆道閉鎖症等で関門部の管の処理はそれなりに慣れているが、肝臓自体を切る手術というのは、経験が少ないという。
その為、経験の少ない外科医でも対応できるように、術前化学療法で、腫瘍と極力小さくして、標準化した肝切除の術式を確立したのではないだろうか。
肝芽腫は、手術による完全切除の可否で予後が決まる為、Pretext3以上では、肝臓の手術に熟練した小児外科医が所属する施設への入院が患者の治療結果に大きく影響を与えることになると言えそうだ。あっちゃんの場合でも、先生方は誰もそうは言わなかったが、USの論文では、移植の検討となる肝芽腫でもそのかなりの部分は切除できると、明言している(なんとなく欧州と北米では発想が随所で平行線になっているところがあるので、どちらが良いとはいえなさそうであるが)。
Excellent survival (93%) was obtained with aggressive resection in children with POST-TEXT III and IV hepatoblastoma meeting criteria for transplant referral. The 1 death occurred in a patient with unfavorable small cell histology. These children should be managed at institutions experienced in both advanced pediatric hepatobiliary surgery and transplantation. Operative exploration was frequently required to ultimately determine which tumors can be resected and which require transplantation.
……
All resections were performed by a single, experienced pediatric hepatobiliary surgeon who has performed well over 100 pediatric liver resections
……
Expeditious referral to a center with expertise in both pediatric liver transplantation and extreme resection is of paramount importance.Evaluation by a surgeon experienced in both operative
options is key to ensuring that 1) transplantation is performed early, when indicated, to avoid the long -term toxicities related to extra cycles of chemotherapy and the poor prognosis inherent in rescue transplant for recurrent tumors; while 2) avoiding the long-term morbidity of transplant in patients who can be safely resected.
(Riccardo A. Superina, MD Cancer 2010 Successful Nontrans plant Resect ion of POST-TEXT III and IV Hepatoblastoma )
上は、肝移植を検討すべきPretext 3-4の22例の肝芽腫患者のうち、実際に肝移植は8例、他の14例は肝切除が可能で、腫瘍を完全切除した14例の生存率は、1年93%、2年91%、5年88%と非常に良好であった。この文の後半を日本語に訳すと、
”これらの子供は、肝切除手術と移植の両面で高い技術水準を持つ施設によって対応されるであろう。腫瘍が移植か切除か最終的に決める為には、Operative exploration(手術中の診査/触診)が、頻繁に求められる。…………
すべての肝切除は、100例以上の小児の肝切除をうまく行った小児の専門外科医によって行われた。…….
肝移植と高度な肝切除の両方に高い専門性を持った施設へ早い段階で照会を行い、①晩期障害を招く過剰な化学療法を避け、早期に移植すべきか、②肝臓移植による長期での弊害を避ける為に肝切除で対応するかを、移植と切除の両方に長けた外科医が評価すべきことが重要なポイントである。”
さらに、この成績が暗に示唆することは、肝芽腫の進行度、化学療法による腫瘍の縮小度合も重要だが、最終的には外科医が切除できなければ、それまでのすべてが無に帰し、切除できれば、それまでのすべてのマイナスが挽回できることになる為、肝切除に熟練した施設をみつけられるかどうかが肝芽腫の親にとっての最大の使命と言えるのではないだろうか?
しかし、肝切除を多数こなす小児外科医など、肝腫瘍の年間症例数から逆算してもそうそういるわけではないように思われる為、誰でも治療できるようにプロトコルを標準化するだけでなく、難易度の高い肝切除もこなせる熟練した小児の肝臓外科医を地域ごとに育成し、困難が予想される場合、早期にその施設が対応するようにするような仕組み作りも必要ではないだろうか、、、、、と安易に肝移植に行く前に思ったりする論文でした。
後日談だが、この論文を紹介してくれたのは、移植外科医の先生で、このアメリカの論文が無ければ、(切除が危うい場合は移植のほうが予後がいいという)欧州のコンセンサスの下に、あっちゃんは、即座に生体肝移植になっていた気がする。
今日の一言
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