肝芽腫の晩期障害(晩期合併症)の報告例

肝芽腫に限らず、晩期障害についての情報は、小児がん自身の情報以上に少ないです。その上、各種の情報が混ざっている為、何に気を付ければよいかが今一つ不明確です。

晩期障害とは?

小児がんは、治癒するようになってきた一方、お子さんが発育途中であることなどから、成長や時間の経過に伴って、がん(腫瘍)そのものからの影響や、薬物療法、放射線治療など治療の影響によって生じる合併症がみられます。これを「晩期障害(晩期合併症)」といいます。晩期合併症は、小児がん特有の現象です。

主な晩期合併症には、成長発達の異常(内分泌(ないぶんぴつ)異常を含む)【身長発育障害、無月経、不妊、肥満、やせ、糖尿病】、中枢神経系の異常【白質脳症、てんかん、学習障害】、その他の臓器異常【心機能異常、呼吸機能異常、肝機能障害、肝炎、免疫機能低下】、続発腫瘍(二次がん)【白血病、脳腫瘍、甲状腺がん、その他のがん】などがあります。
(出所:国立がん研究センター)

上記は、国立がん研究センターからの抜粋ですが、晩期障害に注目が集まり始めたのは、2000年代後半に入ってからです。フォローアップ調査は、結果がでるまでに非常に時間がかかる為、実際には医療関係者の間ではもっと以前から関心は寄せられていたのかもしれません。しかし、小児がん患者の親や家族にそういった情報が入る状況にはなかなかなっていませんでした。

国内では、フォローアップに関してはかなり体制が遅れている感が否めないですが、2013年に、JPLSG(日本小児白血病リンパ腫研究グループ)が2013年に『小児がん治療後のフォローアップガイドライン』という本を出版しました。

おそらく、国内では、小児がん患者の退院後の晩期障害のチェックの為の初めての体系だったガイドラインではないでしょうか?2005年に、このフォローアップ調査の為のグループが立上げられたとありますので、8年がかりの結晶のようです。

このガイドラインは、2013年に整備された小児がん拠点病院の整備指針の中にも「長期にわたって,患者およびその家族の不安,治療による合併症および二次がんなどに対応できる体制を整備すること」が謳われおり、その一環として、ガイドラインがまとめられたようです(重大で特有な晩期合併症が多い造血細胞移植を受けた方の長期フォローアップのガイドラインは,日本造血細胞移植学会で作成中とのこと)。

このガイドラインは、あくまでガイドラインであって、実際の定期チェック等は、各施設に委ねられいます。徐々に、全国統一的な治療方針ができるのでしょうけど、現状は、これはあくまで1ガイドラインということで、この通りに治療がされるというものではないと思います。気になる点があれば、主治医の先生とご相談ください。

肝芽腫の晩期障害の要因

肝芽腫の晩期障害の要因は大きく2点。
化学療法 – 一般的な治療法は、国内では、シスプラチンとピラルビシンの併用療法(CITA)が基本的な化学療法、バックアッププランとしてイホスファミド、カルボプラチン、ピラルビシン、エトポシドの併用療法(ITEC)。これ以外には、イリノテカンを使用するケースがある。また、永久歯の形成期にHBLの治療を受けた場合には歯牙異常が起こりやすいので、定期的な歯科受診が重要。
手術 – 肝切除手術、肝移植
③その他

化学療法による晩期障害

シスプラチン・カルボプラチン

『小児がん診療ハンドブック』では、晩期障害としては、聴覚障害の実を上げていますが、『小児がん治療後のフォローアップガイドライン』では、腎障害、聴覚障害、性腺障害の3つを上げています。

(1)腎障害

これは、個人差が大きいのでしょうか、あっちゃんは指摘されたことはありまえん。

あっちゃんのシスプラチンの服用量は、シスプラチン80mg/㎡×5回、カルボプラチン400mg/㎡。カルボプラチンは、シスプラチン換算で0.25倍とありますが、両方足して判定するのか、別々に判定するのかについての断定的な論文はみつかりませんでした。一応、換算すると、累積で500mg/㎡になります。結構、要注意レベルです。

リスク因子:シスプラチン300 mg/m2 以上,カルボプラチン1,200 mg/m2 以上の使用。(カルボプラチン投与量のシスプラチン換算は、「カルボプラチン投与量× 0.25 =シスプラチン換算量」)
※リスク因子に該当する人は特に要注意という事です。

評価方法

     ①治療終了後5年まで:評価項目(合計24項目)を1年に1回。
     ②治療終了後5年以降:シスプラチン総投与量300 mg/m2 以上または、治療後5年以内の検査で異常を認めた場合、評価項目を1年に1回
    ※評価項目は、24項目と多いので、省略しています。

補足(専門的なので飛ばしてください。) 

    ・持続的電解質喪失が続く患者では,電解質補充療法を行う。特に低Mg 血症は,発生頻度が高く,腎尿細管障害を助長するとされているので注意を要する。
    ・顕微鏡的血尿が認められ,尿培養が陰性の患者,高血圧,蛋白尿,あるいは進行性のCKD(慢性腎臓病)を呈する患者では,腎臓を専門とする医師に相談する。
    ・シスプラチン総投与量300 mg/m2 以上,または治療終了後5年までのフォローにて検査値異常を認める患者では,治療終了後5年以降も上記評価項目を1年に1回実施する。
    ・eGFR(推算糸球体濾過量)については,「臓器別症状別フォローアップガイドライン  腎・泌尿器」の項を参照。

(2)聴覚障害(聴力低下・耳鳴)

あっちゃんは、滲出性(しんしゅつせい)中耳炎による難聴にしばしばなり、そのたびに抗がん剤による聴力低下かどうかの聴力検査をします。痛みを伴わない中耳炎なので、耳鼻科の聴力検査が欠かせません。

リスク因子:シスプラチン300 mg/m2 以上(とくに450 mg/m2 以上),カルボプラチン1,200 mg/m2 以上の使用。

評価項目
純音聴力検査,純音聴力検査による評価が困難な幼児においては聴性脳幹反応(auditorybrainstem response:ABR),または歪成分耳音響放射(distortion product otoacoustic emission:
DPOAE)

評価方法

     ①治療終了時:ベースラインの聴力検査。
     ②治療終了後5年まで:聴力検査を1年に1回。
     ③治療終了後5年以降:聴力検査を必要に応じて行う。

補足

    ・聴力検査で異常が発見された経験者では,聴力障害の進行がなくなるまで,1年に1回程度の聴力検査を実施する。
    ・DPOAEは内耳蝸牛の外有毛細胞の機能を評価する検査で,新生児聴力スクリーニングに用いられている。小さなスピーカーとマイクを内挿してあるプローブを外耳道に挿入し,刺激音を出して,これに反応して得られた音を集音して記録する。耳垢の影響を受けやすい欠点がある。
    ・聴力の維持,聴力障害の進行予防のために,聴力毒性のある薬剤(サリチル酸,アミノグリコシド系抗生物質,ループ利尿薬,ペニシラミンなどのキレート剤)の使用や過度の騒音を避ける。
    ・聴覚障害の一症状として耳鳴を訴えることもあるが,現状では有効な検査方法,治療法はない。

(3)性腺障害(不妊・早発閉経を含む)

リスク因子:シスプラチン600 mg/m2 以上の使用。

評価項目
Tanner stage,精巣容積,FSH,LH,テストステロン(男子),エストラジオール(女子)。

評価方法

     治療終了時
    ・5歳以上:FSH,LH。
    ・10 歳以上の男子:Tanner stage,精巣容積,FSH,LH,テストステロン。
    ・8歳以上の女子:Tanner stage,FSH,LH,エストラジオール。
     治療終了後5年まで:治療終了時と同じ評価項目を1年に1回。
     治療終了後5年以降:表1に示す。

性腺1

(出所:小児がん治療後のフォローアップガイドライン)

補足

    ・テストステロン,エストラジオールの基準値は資料❼を参照する。
    ・ ①~③の検査で検査値,または思春期開始時期に異常が疑われる例では,内分泌を専門とする医師に相談する。なお,思春期開始の遅れは,男子15 歳,女子14 歳に達しても男子では陰部,女子では乳房がTanner 2 度に達しない場合に疑う。
    ・二次性徴の観察は3~6か月毎に行うことが望ましいとされるが,フォローアップ間隔が1年である場合,内分泌を専門とする医師への紹介のタイミングを逸しないためにも,上記の年齢に達する前からの注意深い観察が必要である。
    ・総投与量にかかわらず,思春期以降男子でFSH の上昇を認める場合は,20 歳以降にインヒビンB(保険適用外検査)測定,精液検査を考慮する。成人期以降で精巣容積が10mL を超えず,FSH 上昇がみられる場合は精子形成能の低下を疑う。
    ・挙児を希望する女性の卵巣機能評価手段として,抗ミュラー管ホルモン(保険適用外検査)がある(「.臓器別・症状別フォローアップガイドライン妊孕性」の項を参照)
    ・卵巣機能不全例では1~2年に1回骨密度測定を行う。

アントラサイクリン

ドキソルビシン(DXR:アドリアマイシン),ピラルビシン(THP- アドリアマイシン)等。

(1)心機能障害

リスク因子:総投与量(DXR 換算)250 mg/m2 以上,5歳以下の使用。

評価項目
 心電図,心エコー,BNP,血圧。

評価方法

      ①治療終了時:上記評価項目の他に胸部単純X線写真。
      ②治療終了後5年まで:上記評価項目を1年に1回。
      ③治療終了後5年以降:上記評価項目を表2に従って行う。

心毒性

(出所:小児がん治療後のフォローアップガイドライン)

補足

    ・各アントラサイクリンのDXR 換算は資料⓬を参照。
    ・ ①~③で異常を認める時は,循環器を専門とする医師に相談する。
    ・心エコー検査項目:FS,EF,mVcf,%PWT,E/A,Tei Index(可能であれば)。
    ・心エコーの判定は原則として循環器を専門とする医師が行う。
    ・進学などに伴い運動負荷が大きくなることが予想される経験者では,心電図,心エコー検査(必要に応じ,負荷心電図,負荷心エコー検査を考慮)を実施する。
    ・血漿BNP の評価については「.臓器別・症状別フォローアップガイドライン  心臓」の項を参照。

(2)二次がん

・アントラサイクリンはエトポシドと同様にトポイソメラーゼ阻害作用を有するため,使用後5年(特に3年)までは,二次性骨髄異形成症候群,二次性白血病に注意する。

イリノテカン

晩期障害の症例は、特にほうこくされていない。

イフォスファミド

晩期障害として、肺毒性、性腺毒性、腎毒性、二次がん、代謝性アシドーシス。

化学療法晩期

(出所:小児がん治療後のフォローアップガイドライン)

エトポシド

投与後1~3年後に、急性骨髄性白血病の二次がんの症例の報告が複数されている。

手術による晩期障害

(1)開腹手術例

 一般的に,開腹手術を受けた患者では,腸管の癒着に伴うイレウス症状に注意が必要である。
あっちゃんの場合は、年に一度ほど、激痛を伴う腹痛がある。過去は、すべて便秘が原因だった。手術による癒着の影響と、肝切除により腸の位置が普通の人と違うので、その影響もあるかもしれないとのこと。

(2)肝切除例

 治療終了後1年に1回程度,肝機能検査を行い,持続する肝機能異常がある場合は,消化器科医にコンサルトし,生検を考慮する。

(3)肝移植例

 未だ長期的な合併症についての知見が蓄積されていないが,移植肝には,組織学的な肝線維化がみられるという報告があり,ヒアルロン酸,型コラーゲンなどの線維化マーカーのフォローを考慮すべきである。また,肝内,または吻合部の胆管狭窄の報告例があり,胆汁うっ滞,胆管炎の症状に注意が必要である。
移植した肝臓に対して、免疫抑制剤の投与量に関しては、線維化を防ぐためにも免疫抑制剤を使用しなくても問題が出ないケースでも免疫抑制剤を使うほうがいいとあっちゃんの切除をした先生は判断していました。

(4)肺切除例

 定期的な肺機能検査を実施する。

その他晩期障害

歯牙異常

抗がん剤を投与する年齢によっては、永久歯の歯牙異常が起こりやすい。
リスク因子
  5歳未満での小児がんの治療
乳歯や永久歯は胎生7週より順次形成開始され,およそ15 歳まで継続する。また骨組織と異なりリモデリングが起こらないため,永久歯の形成障害が起こるとその影響が生涯残る可能性がある。しかし,歯の形成や歯並びは遺伝的要素の影響や他の種々の要素が関与するので,小児がんとの関係が特定できない場合もある。

永久歯のスケジュール

(出所:Wikipedia)

検査スケジュール3
血中テストロゲン

(出所:小児がん治療後のフォローアップガイドライン)

Tanner分類

(出所:小児がん治療後のフォローアップガイドライン)

アントラサイクリン換算表

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(出所:特定非営利活動法人日本小児白血病リンパ腫研究グループ)